困惑
転機が訪れたのは仕事を辞めた後。
人生の中休みとして、半年程の「働かない時間」を設けました。
久々にまともに筆を取れましたが、困ったことに何を描いたら良いか分からなくなってしまっていました。暁斎を真似て、無理矢理に髑髏などを描いてみたものの、何かが違う。描きたい気持ちはあるのに、描きたいものがまとまらない。自身の中にできた歪なプライドも邪魔をしていました。『美術大学で学び、仕事でも好きな分野からなんとか逸れずに来た。人としても成長したはずだから、すごい物が描けないといけない!』なぜかそう思い込んでいました。デッサン力も相当に落ちていました。
そんなおり、パートナーと2週間ほどフランス旅行に行ってみることになりました。到着したフランスはストライキの真っ最中で、交通機関は機能していませんでした。知恵を巡らし、予定していた陸路の替えに、現地で飛行機を手配してなんとか目的地に辿り着いたり、既に入場待ちの長蛇の列ができていた中でルーヴル美術館が当日ストとなり、返金不可のチケットを事前購入していたものの早々にルーヴルは諦め、ホットワインを引っ掛けて街中の画材屋巡りに切り替えるなど、意外なほど充実した時間を過ごしました。
(The Grande Galerie de l'Évolution)
その他にもトラブルだらけの2週間でしたが、それを乗り越えて過ごす旅の毎日の中でふと、『世界はとても広くて、それに比べたら自分の悩みなんてとてもちっぽけだし、つまらないものだな』と思いました。何も知らない海外で、次から次へと起こるトラブルを乗り越えて楽しく過ごしたという自信が、絵を描くという自分だけの世界にこびり付いていた何かを洗い流しました。